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大阪地方裁判所 昭和24年(行)136号 判決 1958年5月29日

原告 浅津達夫

被告 大阪市長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、請求の趣旨として、「被告が原告に対し為した(一)昭和二二年七月二六日地方自治法施行規程第三四条第一項第一号による文書告知を以てする懲戒免職処分、(二)同年一二月一〇日市吏員分限規程第三条第一号による辞令交付を以てする休職処分(三)昭和二三年一二月一一日地方自治法第一七二条第二項及び吏員分限規程第六条第二項による擬制退職処分は、何れも無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決を求め、

その請求の原因として、

原告は大阪市の事務吏員であるところ、被告は昭和二二年四月一日原告に対し、技術部門への転任を命じたので、原告はこれを違法処分として服務を拒み右処分の撤回方を申入れたが、被告より俸給支払を停止すべき旨の通告を受けたので、生活上、健康上の理由により已むなく欠勤したところ、被告の経済部商工課長は同年七月一八日出頭命令により大阪市役所経済部に出頭した原告に対し、職務放棄、無届欠勤、上司侮辱の理由によつて大阪市吏員分限規程第二条第三号により職務組合が同意すれば解職すべき意図である旨言明し、次いで、「同月二五日までに依頼免職のための辞表を提出せられたく、もし提出せられなければ吏員分限規定によつて解職することとする」旨の同月二二日付書面による通告を発し、右通告書面は同月二四日原告方に到達したが、原告は固より右期限内に辞表を提出しなかつたので、右期限を経過した同年七月二六日懲戒免職処分がなされたことになる。

ところが被告は同年一二月一〇日に至り、同年一〇月二八日付を以て原告に対し前記分限規程第三条第一号による休職処分を行つたので、右処分日より休職期間満一年を経過した昭和二三年一二月一一日を以て、解職となるから、この日を以て新たに原告に対し解職処分が行われたこととなる。

ところで、初めに述べた昭和二二年七月二六日の懲戒免職処分は、その原因となつた被告の転任命令が違法であるから、これを拒否するは当然であり、そのための欠勤につき責を問われるいわれなく、また免職権限者である大阪市長以外の者により、市長の意思に基かずして為されたものであり、且つ懲戒委員会の承認を得ないでなされたものであるから、右免職処分は無効である。

次に前述の昭和二二年一二月一〇日の休職処分は、これに先立つてすでに右の免職処分がなされているから、これによりすでに大阪市吏員の身分を失つた者に対してなされた処分として無効である。

さらに又昭和二三年一二月一一日の解職処分は、その前提となる右休職処分が無効である以上、これまた当然に無効であり、右休職処分と同様、さきに免職処分のなされた者に対する処分であるから無効であり、また懲戒委員会の議を経ずしてなされたものであり、且つ、解雇予告手当の支払のない点において無効である。

よつて本訴に及ぶと述べ、被告の答弁に対し、被告の指定代理人の代理権は民事訴訟法、行政事件訴訟特例法、法務総裁権限法によつて認められているものではないから、訴訟代理権としては是認され得ないものである。

と述べた。

(立証省略)

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、

答弁として、

一、原告の請求は、いずれも、さきに確定判決があつた請求と同一の請求であつて、確定判決の既判力に低触するから許されない。

即ち、原告は昭和二三年二月被告を相手方として、「被告の原告に対する昭和二二年七月二二日付懲戒免職処分及び昭和二二年一〇月二八日付休職処分の各取消」の訴を大阪地方裁判所(同庁昭和二三年(行)第四三号行政処分取消請求事件)に提起し、同年一二月二一日原告の請求を棄却するとの判決の言渡を受け大阪高等裁判所に控訴(同庁昭和二四年(ネ)第三八号行政処分取消控訴事件)の申立を為し、請求の趣旨を「被控訴人(被告)の控訴人(原告)に対する昭和二二年四月一日付勤務替処分及び昭和二二年七月一八日付懲戒処分並びに昭和二二年一二月一日付休職処分の各無効確認」を求める、と変更したが、右請求も又理由のないものとして、昭和二四年五月二五日控訴棄却の判決言渡を受け、原告はこれに対し最高裁判所に上告(同庁昭和二四年(オ)第一三一号行政処分無効確認事件)の申立をしたが同年九月七日上告状却下命令を受け、右判決は確定した。

従つて、右確定判決の既判力に反して、右免職及び休職処分の無効を主張し、その確認を求めることは許されない。

二、(イ) 原告主張事実中、原告が大阪市吏員であつたこと(昭和一六年一月臨時傭として、採用、昭和二一年八月書記に任用)は認めるが、被告が原告に対し、昭和二二年七月二六日に懲戒処分をなしたことは否認する。

(ロ) 原告主張の昭和二二年一〇月二八日付休職処分の辞令が同年一二月一〇日に原告の許に到達したことはあるが、この処分通知の受領により、原告を昭和二二年一〇月二八日より休職処分に付するという処分内容がその通りの効力を生じたもので、原告主張の昭和二二年一二月一〇日に休職処分がなされたものではない。

(ハ) 原告主張の昭和二三年一二月一一日の退職処分は否認する。被告の原告に対する前記の昭和二二年一〇月二八日付休職処分により、その後一ケ年の期間経過により、休職期間満了としての自然退職の効果が生じたのみで、そこには何等の行政処分は存しない。

三、訴訟代理権については、被告の指定代理人は、被告が地方公共団体の長として、地方自治法第一五三条により、自己の権限に属する訴訟行為事務を当該公共団体の吏員に委任又は臨時代理せしめるために選任したもので、民事訴訟法第七九条第一項の代理人に該当するから、訴訟代理権は適法に存在する。

と述べた。(立証省略)

理由

先ず被告訴訟代理人の代理人の代理権について検討するに、被告指定代理人横谷義人は、その当時の被告大阪市長近藤博夫により、本訴について臨時市長代理を命ぜられた大阪市書記であり、同指定代理人稲田芳郎、近藤博之は、被告大阪市長中井光次により、本訴について訴訟行為を行う職員として指定せられた大阪市事務吏員であることは、本件記録に徴しこれを認め得べく、右の如き地方公共団体の長が自己の権限に属する事務(訴訟行為を含む)の一部を、当該公共団体の吏員に臨時代理又は委任せしめ得ることは地方自治第一五三条第一項により明白であつて、その者は、単なる私人間の任意代理と異なり、法規に根拠を有する者として民事訴訟法第七九条にいわゆる「法令ニ依リテ裁判上ノ行為ヲ為スコトヲ得ル代理人」に該当するものと解して差支ないから、右の手続によつて授権を受けた臨時代理人又は受任者が、本訴につき訴訟代理権を有することは疑のないところである。

次に、原告の(一)昭和二二年七月二六日に被告が為した懲戒免職処分、(二)同年一二月一日に被告がなした休職処分の各無効確認の請求に対する被告の既判力の抗弁について按ずるに、成立に争のない乙第一、二号証によれば、原告はさきに被告を相手方として、大阪地方裁判所に対し、被告の原告に対して為した昭和二二年七月二二日付懲戒免職処分及び同年一〇月二八日付休職処分(同年一二月一〇日になされたもの)の無効又は不当を主張してこれが取消を求める趣旨の訴訟(同庁昭和二三年(行)第四三号行政処分取消事件)を提起し、同裁判所はこれに対し、右の懲戒免職処分はその存在が認められないこと、右休職処分はこれを取消すべき無効、不当の事由が認められないことを理由として、いずれも原告の請求を棄却する旨の判決を言渡したが、右判決に対しては原告より大阪高等裁判所に対し控訴の申立を為し、右事件(同庁昭和二四年(ネ)第三八号行政処分取消控訴事件)において、右昭和二二年七月二二日になされたという書面による免職処分に先立ち同一処分が同月一八日に口頭でなされているから、その処分の無効及び前掲休職処分(昭和二二年一二月一〇日になされたものとして)の無効をそれぞれ確認を求める趣旨にその請求を変更したがこれに対し同裁判所は、右懲戒処分は(口頭又は書面によるとを問わず)その存在が認められないこと、右休職処分には無効原因たるべき違法の点は認められないことを理由として、いずれも原告(控訴人)の請求は理由がないとの理由で控訴を棄却する旨の判決をしたことを認めるに足り、右判決がその後確定したことは原告の明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなすことができる。

そうすれば、本訴における原告の請求中、(一)被告の原告に対する昭和二二年七月二六日の懲戒免職処分の無効確認を求める部分は、それが存在しないという理由で、その請求を理由なしとして棄却した前訴の判断に反して、その存在を主張し、その効力を争うものに外ならないし、又(二)被告の原告に対する昭和二二年一二月一〇日の休職処分の無効確認を求める部分は、それに対する無効原因が存在しないという理由で、その請求を理由なしとして棄却した前訴の判断に反して、その無効原因の存在を主張し、その効力を否定するものに外ならず、いずれも前後同一の請求につきすでに確定した前訴の判断と矛盾する判断を、さらに後訴において請求するものであつて、この請求は即ち確定判決の既判力に遮られ、権利保護の利益のないものとして許されないものといわなければならないものといわなければならない。

そうすれば右原告の(一)(二)の請求については、被告の抗弁を採用し、その請求は理由のないものとして棄却を免れない。

次に、原告の(三)の請求、即ち、被告の原告に対する昭和二三年一二月一一日になされた退職処分については、前に述べた確定判決の既判力は直接に及ばないものと認められるので、この点に関する被告の抗弁を排斥し、進んで右処分の存否につき按ずるに、原告は、これを、さきに被告が原告に対して為した休職処分の効力発生より満一年の休職期間の経過により解職の効果を生ずるから、さきの休職処分とは別の新たな処分がなされたものであると主張するけれども、これが、さきの休職処分の存在という前提要件と、これに対する一定の期間の経過なる法律事実の加わることにより、法律上当然に発生する法効果と解する以外に、特に新たな行政処分がなされたとすることの何等の証拠も認められないから、独立の行政処分として右の解職処分が存在するものとしてその効力を争う原告の請求は、その余の点につき判断を俟つ迄もなく、その理由のないものとして棄却せられねばならない。

(尤も前記の休職処分と、その解職処分とはその効果において甚だ相違するものがあるから、後者が独立の行政処分であると否とに拘らず、その効力を争う趣旨の主張と解するとしても、この効果は前記の休職処分に単に日時の経過なる事実の附加せられて生じたことの外、別種の要件を必要とすることについては、何等原告の主張立証するところでないから、前提を為すこの休職処分が前掲確定判決の既判力のためにその無効を主張し得ない以上、結果たる解職の効果についても、無効原因を認定し得る余地はないものといわざるを得ないから、かゝる主張としても又採用できないことは明白である。)

よつて原告の請求は、すべてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 宮川種一郎 奥村正策 右田堯雄)

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